シンプルなのに奥深い!食パン開発で学んだこと
20数年前、食品メーカーに入社し、すぐにパンの研究開発を担当することになりました。何もパンについて何も分からなかったため、以前某有名ベーカリーショップにて店舗を運営、製造責任者されてきた技術者の方が社内におり、私の直属の先生となりました。その先生からパン作りについて厳しくしごかれた時期が3年間ありました。
新米の開発者として
1カ月間、食パンの基本配合をもとに毎日繰り返し同じものを作り続けたことがあります。同じ分量を量ってこねはじめるのですが、生地の状態が微妙に異なることに気づきました。その後、同じように発酵させ、形状を作り、焼いていくのですが、膨らみ方、時間と焼けたパンの表情が、毎回違ったんです。その都度、先生から指導を受けました。

はじめは、先生から食パンの作り方を教えていただき、お前もこのようにやってみろ!といった感じのスタンスで指導を受けましたが、同じようにできない状況でした。先生が作った食パンと私の作った食パンは、同じ分量、ほぼレシピに書いている工程で作っているのですが、外観、中味の表情、食感、風味が異なるのです。魔法にかかったようでした。
先生と私の作った食パンが全く違う理由は?
食パンに含まれる小麦粉、酵母が生きているためです。日々の気温、湿度、水温のそれぞれの影響によって同じように生地をこねても生地感が変わるのです。ですので、その日の生地感に合わせて、こねる力の強度や時間の長さを調整すること、こね終わりの生地温度をほぼ27~28℃の一定にする必要がありました。ここでの調整がずれると、その後の発酵、成型、焼成の条件もそれぞれ変わってきます。
焼き上がり後の外観、内側の状態によって良いパンかが分かる
例えば、食パンの下をみると、小さな穴がたくさんあいていますが、穴の大きさがポツポツと小さいものが多いと発酵が不十分となります。また横を見ると焼いているオーブンのなかで、生地がどれだけ伸びたか、ラインが入っています。その下が、色が濃く、その上が若干薄い状態です。発酵や生地の状態が良かったかがわかります。

特に、焼いた後、冷却し、スライスした際の内部の表情の評価がポイントとなります。きめ細かさ、穴の形状、穴の大きさのばらつき、底に近いところの生地のたまりの状態を見ます。良いパンは、全体的に縦方向にだ円の形状になっている穴がたくさんあり、色は白く、まだら模様ではなく均一な表情をしています。発酵と生地状態のバランスが良く、オーブンの中で素直に伸びていることが分かります。このような食パンは、食感も全体に均一で風味もよく美味しい食パンになっています。
食パンを毎日作り続け、焼き上がりのパンを見ながら評価し、反省の毎日によって良い食パンが作れるようになっていきます。
